「Inglourious Basterds」ブラッド・ピット:クエンティン・タランティーノ

クエンティン・タランティーノ監督の「最高傑作」(2015年現在)、第二次世界大戦末期のヨーロッパを描いた血の滴る戦争モノである。

良い意味でとても「過剰」な映画だ。

まずキャストが過剰である。主演のバスターズ隊長のブラッド・ピットだけでも十分濃厚な演技をしているのに、ナチス・ドイツのSS高官を演じるクリストファ・ヴァルツの怪演には終始舌を巻く。さらに、ヒロイン役は二人、映画館のユダヤ系女主人役のメラニー・ロランに英国スパイのドイツ人女優役ダイアン・クルーガー、それからブラッド・ピットの脇を飾るバスターズの面々も、誰もが濃すぎるキャラを思い切り演じている。どのシーンで映画を切り取っても絵になる俳優しか登場しない。

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Au revoir, Shosanna!

その中でもやはり、クリストファ・ヴァルツを取り上げたい。演じるナチス・ドイツの高官らしく、常に胸の勲章を気にしながら、慇懃無礼を絵に描いたような立ち居振る舞いをし、官僚の例に違わぬ高圧的で冗長な物言いを保ちながら、英仏独伊の各言語を相手によって腹立たしいほど巧みに使い分ける。メラニー・ロランとレストランでStrudelを食べるシーンなど、何度でも見たくなる快演の目白押しだ。アカデミー賞も納得の「過剰な」セリフ回しと演技力である。

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そして最後に脚本が「過剰」である。基本的なプロットはナチス・ドイツに虐げられたユダヤ人そして連合国の軍隊が第三帝国を滅ぼすという史実に沿ったものなのに、全5部に分けてありあまる臨場感でその過程をイヤというほど丁寧に映し出す。第四、第五部はまるでヒッチコックのようだという監督の弁どおり、まったく緊張の解けないままにストーリーはゆっくりと着実に突き進んでゆく。しかし、正直に告白すれば、この最後のプロットの過剰さについては、初見では全く感じることが出来ないであろう。結末がわかっていてもどうしても手に汗を握って最後まで観てしまう、まさに名作であることに疑いの余地はない。

クエンティン・タランティーノ監督の映画は、彼の映画知識の粋を凝らした数々のオマージュが込められていることで有名だ。おそらく映画マニアにとってはこの「過剰さ」が彼の映画のたまらない面白さの所以なのだろう。「パルプフィクション」「ジャッキー・ブラウン」など数ある名作を押しのけて、タランティーノ最高傑作という「自称」に偽りのない、文句なしの一本だ。

「Trainspotting」ユアン・マクレガー:ダニー・ボイル

新年一発目からスマッシュヒットに当たった.この映画は90年代のスコットランドに生きるドラック漬けの若者たちの話だ.公開当初は世界中で大ヒットになったらしい.

Choose Life. Choose a job. Choose a career. Choose a family. Choose a fucking big television, choose washing machines, cars, compact disc players and electrical tin openers….(blah blah) Choose life… But why would I want to do a thing like that? I chose not to choose life. I chose somethin’ else. And the reasons? There are no reasons. Who needs reasons when you’ve got heroin?

冒頭からとても刺激的だ. マクレガー「人生を選ぶには理由がいるだろ?でもヘロインがあるのに何故そんな理由が必要なんだい?」

ビートニク文学を思い出さないだろうか?徹底した堕落ときっかけは明かされないドラッグへの終わりなき依存,それに伴う極限までの不潔さが映画前半でも画面隅々にきっちりと映されている.

麻薬をやりすぎて病院や親にたびたび迷惑を掛けながらも,俺には社会なんて関係ないんだとマクレガーは言ってしまう.スコットランドも全くもって救いがたい国だと言い切ってしまう.足を洗って働いてみるも,昔の麻薬仲間との縁が切れずに結局カタギの仕事は首になってしまう.麻薬仲間にも本当に信用できる奴なんていないが,金のためになら協力はする.

一体何の物語なんだろうかと思う.マクレガーにはまるっきり人生に対する主体性がなく,有り体に言って「何も考えていない」若者を代表してる.ただドラッグをぼろぼろの静脈に打ち込む以外,彼には生きている目的も理由もない.したがって物語もないのだ.ただ身の回りのちいさな共同体で否応なく起きることに,否応なく反応するだけである.環境の変化はあるがそこに理由はない.まさに若者が発見する「投げ込まれたこの世界」だ.

そして突然「仲間」への裏切りと更生への誓いが,極めて冷めた言葉で語られて映画は終わる.こういった「割りきって人生を生きていく覚悟」というものは誰の心にも思い当たるだろうが,真の意味で新たな人生の幕開けを予期させるような明るい希望も別段感じられない.

Now I’m cleaning up and I’m moving on, going straight and choosing life. I’m looking forward to it already. I’m gonna be just like you. The job, the family, the fucking big television, (blah blah) getting by, looking ahead, the day you die.

全体を通じて俳優たちの話すコテコテのスコットランド訛りがとても心地よい.イギーポップを中心とした彼らの愛する音楽も,当時の空気感も含めてとても楽しめる.マクレガーの実家の雰囲気はなぜかお気に入りの映画「時計じかけのオレンジ」にとても似ている.これから何度も観直すことになる予感で満ち満ちている大満足の1本だった.